《疫学》
《予後》
他疾患の除外を行った上で、下記の基準を満たす場合にサルコイドーシスを診断する。
組織診断群 |
1臓器に組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽肢腫を認め、 かつ以下の1)~3)の所見が見られる。 1)他の臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認める。 2)他の臓器で「サルコイドーシス病変を強く示唆する臨床所見」がある。 3)「全身反応を示す検査所見」6項目中2項目以上を認める。 |
臨床診断群 |
組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫は証明されていないが、 2つ以上の臓器において「サルコイドーシス病変を強く示唆する臨床所見」があり、 かつ「全身反応を示す検査所見」6項目中2項目以上を認める。 |
《全身反応を示唆する検査所見》
①両側肺門リンパ節腫脹 ②血清ACE活性高値 ③ツベルクリン反応陰性 ④Gaシンチグラフィーで著明な集積所見 ⑤気管支肺胞洗浄検査でリンパ球増加またはCD4/CD8比高値 ⑥血清あるいは尿中Ca高値 |
○留意事項
臓器 |
症状 |
代表的な検査異常 |
全身症状 |
発熱、倦怠感 |
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呼吸器症状 |
咳、息切れ、喘鳴、呼吸困難 |
· 両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy:BHL) · 上肺野優位の粒状影、斑状影、線維化 · 肺機能低下(TLC、FVC、DLCO) · 気管支鏡で綱目状網細血管怒張(Network formation)、小結節、気管支狭窄 |
眼症状 |
飛蚊症、霧視、視力障害 |
· 肉芽腫性前部ブドウ膜炎、隅角結節、虹彩前癒着、硝子体混濁、網膜血管周囲炎、網脈絡膜萎縮、視神経乳頭/脈絡膜肉芽腫 |
皮膚症状 |
丘疹、結節、環状皮疹、皮下結節 |
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心症状 |
めまい、失神、動悸、心不全 |
· 心電図異常(伝導障害、心室性不整脈) · 心臓超音波(局所的な左室壁運動異常、心室瘤、心室中隔基部の菲薄化、左室収縮不全) |
神経 |
末梢神経障害、脳神経症状、痙攣、尿崩症、頭痛 |
· 造影MRI:髄膜や脳硬膜の造影効果、髄膜/脳実質の腫瘤、水頭症、多発性白質病変 · 髄液:単核球上昇、蛋白上昇、ACE上昇 |
筋症状 |
筋力低下、筋痛、腫瘤 |
· 筋炎 · MRI:筋内腫瘤 |
腎症状 |
腎不全、尿管結石 |
高Ca血症、高Ca尿症、腎尿路の石灰化、 腎腫瘤 |
消化器症状 |
黄疸、胃腸症状 |
内視鏡:潰瘍、粘膜肥厚、粘膜隆起 |
造血器症状 |
脾機能亢進、脾腫 |
· CT:脾腫、脾多発性低吸収域 · 血液:白血球減少、貧血、汎血球減少 |
リンパ節 |
表在/腹腔内/縦隔リンパ節腫脹 |
· CT/MRI:リンパ節腫大 · Gaシンチ:リンパ節に異常集積 |
骨・関節症状 |
腫瘤、関節痛、変形、骨折 |
· X線検査:骨梁減少、嚢胞状骨透亮像、関節破壊変形 |
呼吸器病変を強く示唆する所見 |
両側肺門リンパ節腫脹(BHL)あり |
BHLを認めない場合は以下の何れかの所見を認める。 ①胸部X線写真 1)上肺野優位でびまん性分布をとる肺野陰影、粒状影、斑状影が主体。 2)気管支血管束周囲不規則陰影と肥厚 3)進行する上肺野を中心に肺野の収縮を伴う線維化病変 ②CT所見 1)肺野陰影は、小粒状影、気管支血管周囲間質の肥厚像が多く見られ、局所的な収縮も伴う粒状影はリンパ路に沿って分布することを反映し、小葉中心部にも小葉周辺部(胸膜、小葉間隔壁、気管支肺動脈)にもみられる。 2)結節影、塊状影、均等影も頻度は低いが見られる。胸水はまれである。進行し線維化した病変が定型的な蜂窩肺を示すことは少なく、牽引性気管支拡張を伴う収縮した均等影となる事が多い。 ③気管支鏡所見 1)網膜状網細血管怒張 2)小結節 3)気管支狭窄 |
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除外診断 |
慢性ベリリウム肺、じん肺、結核、悪性リンパ腫とリンパ増殖性疾患、過敏性肺臓炎、Wegener肉芽腫症、転移性肺腫瘍、アミロイドーシス |
《肺病変のステージ分類》
Stage |
X線所見 |
StageⅠ |
両側肺門リンパ節腫脹 |
StageⅡ |
両側肺門リンパ節腫脹と上肺野優位の網状影 |
StageⅢ |
上肺野優位の網状影と肺門リンパ節の縮小 |
StageⅣ |
網状影、肺容量減少、牽引性気管支拡張を伴う腫瘤の集簇。腫瘤は石灰化や空洞を伴うこともある。 |
Nodular Sarcoid |
肺門リンパ節腫脹は認めず多発性の両側肺野結節影 |
眼病変を強く示唆する所見 (6項目中2項目以上で診断基準に準じて診断) |
①肉芽腫性前部ブドウ膜炎 ②隅角結節またはテント状虹彩前癒着 ③塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状) ④網膜血管周囲炎(主に静脈)および血管周囲結節 ⑤多発する蝋様網脈絡膜滲出斑または光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣 ⑥視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫 |
その他参考となる眼病変 |
・ 角結膜乾燥症 ・ 上強膜炎/強膜炎 ・ 涙腺腫脹 ・ 眼瞼腫脹 ・ 顔面神経麻痺 |
除外診断 |
結核、ヘルペス性ブドウ膜炎、HTLV-1関連ブドウ膜炎、ポスナー・シュロスマン症候群、ベーチェット病、眼内悪性リンパ腫 |
《各病変の心サ症中の割合》
完全房室ブロック | 23-30% |
脚ブロック | 12-32% |
心室頻拍 | 23% |
心不全 | 25-75% |
突然死 | 25-65% |
Cardiac sarcoidosis: a comprehensive review (Arch Med sci 2011;7:546)
《心サルコイドーシスの診断基準》
心病変を強く示唆する所見 |
1)主徴候4項目中2項目以上が陽性 2)主徴候1項目、副徴候が2項目以上陽性 |
主徴候 |
(a)高度房室ブロック (b)心室中隔基部の菲薄化 (c)Gaシンチグラフィーでの心臓への異常集積 (d)左室収縮不全(EF<50%) |
副徴候 |
(a)心電図:心室性不整脈、右脚ブロック、軸偏位、異常Q波 (b)心臓超音波:局所的な左室壁運動異常あるいは形態異常(心室瘤、心室壁肥厚) (c)心血流シンチでの潅流異常 (d) 造影MRIでの心筋遅延造影 (e)心筋生検:心筋間質の線維化や単核細胞浸潤 |
除外項目 |
巨細胞性心筋炎 |
皮膚サルコイド |
①結節型:隆起性病変で浸潤のある紅色の丘疹、結節 |
②局面型:環状あるいは斑状の隆起性病変である。環状皮疹は遠心性に拡大する病変で、中央部は正常皮膚色でやや萎縮性を呈し、辺縁は紅色でわずかに堤防上に隆起する。斑状病変は類円形あるいは不整形の紅斑である。 |
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③びまん浸潤型:しもやけに類似した皮疹で、暗紅色の色調で、びまん性に腫脹する。しもやけの好発部位である指趾、頬部、耳垂に好発する。 |
|
④皮下型:種々の大きさの弾性硬の皮下結節で多発することが多い。通常被覆皮膚は正常 |
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⑤その他、苔癬様型、結節性紅斑型(病理組織は類上皮細胞肉芽腫)、魚鱗癬型、乾癬様型、疣贅様型 |
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瘢痕浸潤 |
外傷などの刺激を受けた部位に生じ、瘢痕に応じて種々の臨床像を示す。膝蓋、肘頭、顔面 |
結節性紅斑 |
淡紅色の有痛性皮下結節で下腿に好発する(但し本邦ではサ症で結節性紅斑の合併は稀) |
※除外診断:環状肉芽腫、Annular elastolytic giant cell granuloma,リポイド類壊死、Melkerson-Rosenthal症候群、顔面播種状粟粒性狼蒼、酒さ、皮膚結核
《皮下組織の類上皮細胞性肉芽腫》
結核 | 類上皮細胞肉芽腫(Bazin硬結性紅斑)を生じることもあり、他方では組織学的に非特異的な滲出ないし増殖性の死亡s危険を生じることがある。 |
梅毒 | 第2期後期(結節性梅毒疹)たまは第3期(ゴム腫)の反応として生じる。 |
スポロトリコーシス | スポロトリキン反応、組織内菌要素の証明、組織片からの菌の証明、プラズマ細胞、リンパ球に囲まれた肉芽腫、ヨードカリに対する反応 |
クロモミコーシス | 微小膿瘍内の菌要素の証明、菌の培養、鱗屑内の鏡検で菌証明 |
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臨床症状 |
中枢神経 |
||
実質内肉芽腫病変 |
限局性腫瘤病変 (サルコイド結節が癒合して結節を形成) |
· 視床下部・下垂体:尿崩症、下垂体機能低下症 · 視交叉:両耳側半盲 · その他:頭痛、記銘力障害、失語症、片麻痺、感覚障害、視野障害 |
|
びまん性散在性肉芽腫病変(サルコイド結節が散在) |
痙攣発作、精神症状、記銘力障害、失語症、失行症、失認症、錐体路症状 |
|
脊髄病変 |
対麻痺、膀胱直腸障害、感覚障害、Brown-Sequard症候群、円錐症候群 |
髄膜病変 |
髄膜炎/髄膜脳炎 |
無症候性、急性・慢性いずれの経過もとる。頭痛/うっ血乳頭/けいれん/発熱はまれ |
|
肥厚性肉芽腫性硬膜炎 |
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水頭症 |
|
頭痛、記銘力障害、歩行障害 |
血管病変 |
血管炎 |
精神症状、錐体路徴候、記銘力症状、痴呆 |
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脳室周囲白質病変 |
精神症状、痴呆 |
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静脈洞血栓症 |
偽性脳腫瘍 |
脳症 |
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末梢神経 |
||
脳神経麻痺 |
顔面神経麻痺 |
両側に出現するときは特徴的 |
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舌咽・迷走神経麻痺 |
嗄声・嚥下障害 |
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聴神経障害 |
めまい、耳鳴、難聴 |
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視神経障害 |
視力障害 |
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三叉神経障害 |
顔面の感覚障害、三叉神経痛 |
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嗅神経障害 |
嗅覚異常 |
|
その他の脳神経 |
眼球運動障害、複視 |
脊髄神経麻痺 |
多発性単神経炎 |
|
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多発神経炎 |
Small fiber neuropathy |
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単神経麻痺 |
横隔神経麻痺による呼吸困難など |
|
その他 |
神経根障害、馬尾症候群、膀胱直腸障害、下肢脱力、腰痛 |
筋 |
||
急性、亜急性筋炎型 |
近位筋優位の筋力低下、筋把握痛、発熱、有痛性痙攣 |
|
慢性ミオパシー |
両側性近位筋優位、またはびまん性の筋力低下および筋萎縮、緩徐進行性、ときに仮性肥大、 |
|
腫瘤型ミオパシー |
筋肉内腫瘤を触知、 |
足関節病変が90%にみられ、両側性の場合もある。しばしば反応性関節炎との鑑別が難しい。40歳以下で両足関節の関節炎をみたらサルコイド関節症の可能性を積極的に考える。
1、ACE
《ACEが上昇する病態と頻度》
肉芽腫性疾患 |
ベリリウム肺 |
75% |
サルコイドーシス |
57% |
|
珪肺症 |
42% |
|
Hansen病 |
34% |
|
原発性胆汁性肝硬変 |
27% |
|
ヒストプラズマ症 |
16% |
|
肺石綿症 |
11% |
|
肺結核 |
4% |
|
Hodikin病 |
3% |
|
非肉芽腫性疾患 |
Gaucher病 |
100% |
甲状腺機能亢進症 |
80% |
|
肝硬変 |
30% |
|
糖尿病 |
25% |
2、高Ca血症、高Ca尿症
3、血清ADA
4、リゾチーム
5、気管支肺胞洗浄
《参考:健常人のBAL値》
|
総細胞数 |
Mφ(%) |
リンパ球(%) |
好中球(%) |
好酸球(%) |
非喫煙者 |
12.72±8.42 |
87.75±7.27 |
11.8±10.69 |
0.94±1.31 |
0.27±0.64 |
喫煙者 |
41.8±4.5 |
92.5±1.0 |
5.2±0.9 |
1.6±0.2 |
0.6±0.1 |
○慢性サルコイドーシス
○結節性紅斑
○Lofgren症候群
○Heerfordt症候群
《臓器病変と治療》
臓器病変 |
適応 |
治療 |
肺 |
胸痛 |
NSAID |
|
咳または喘鳴 |
吸入ステロイド |
|
呼吸困難、肺機能低下(FEV1.0、FVC、DLCOが予測値の70%未満 |
PSL20~40mg |
|
ステロイド減量困難 |
MTX追加 |
|
肺高血圧、StageⅣ |
上記+移植を検討 |
心臓 |
心ブロック |
PSL+ペースメーカー |
|
心室細動 |
PSL+埋め込み型除細動 |
|
心不全 |
上記+移植を検討 |
神経 |
無菌性髄膜炎、脳神経障害 |
PSL30~40mg(0.5mg/kg) |
|
大脳病変、脊髄病変 |
mPSLpulse+PSL1mg/kg |
眼 |
前部ブドウ膜炎 |
ステロイド点眼(局注) |
|
後部ブドウ膜炎 |
PSL20~40mg |
高Ca血症/尿症 |
腎尿管結石 |
PSL20~40mg |
皮膚 |
結節性紅斑 |
経過観察、NSAID |
|
|
外用ステロイド |
|
びまん性浸潤型皮疹(lupus pernio) |
PSL20~40mg、難治性の場合は1mg/kg |
骨 |
嚢胞状の骨溶解 |
PSL20~40mg |
筋 |
筋痛、運動障害を伴う筋炎 |
PSL20~40mg |
涙腺/唾液腺 |
症状あり |
|
関節 |
|
NSAID、コルヒチン、PSL10-15mg、MTX |
《ステロイド以外の治療》
薬剤名 |
有効性、コメント |
メトトレキセート(Methotrexate:MTX) |
ステロイド不応または副作用時に最初に選択される免疫抑制剤である。肺、眼、皮膚、肝、神経病変での有効性が報告されている。5-7.5mg/週使用する。 |
アザチオプリン(Azathioprine:AZA) |
MTX不応例や使用できないときに用いられる。 肺サ症への有効性が報告されている。 |
シクロフォスファミド(Cyclophosphamide:CPA) |
内服の場合25~50mgから増量し、白血球4000~7000/mm3を目安に増量する。パルス療法として500~1000mgを2~4週ごとで使用することもある。 |
シクロスポリン(cyclosporinA) |
小規模症例の報告で有効性が示されず、多毛や知覚異常、高コレステロール血症などの副作用が増えたとの報告がある |
ミコフェノール酸モフェチル(Mycophenolate mofetil:MMF) |
皮膚、中枢神経、腎サ症で有効であったとする症例報告がある。 |
テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリン、ドキシサイクリン) |
皮膚病変の一部に効果があるという報告がある。肺サ症には有効性は示されていない。 |
インフリキシマブ(infliximab:INF) |
生物製剤の中では最もよく使用される。難治性の神経サ症、心サ症、皮膚サ症、上気道病変での有効性が報告されている。 |
アダリムマブ(Adalimumab) |
皮膚、血液異常の症例で効果があったという報告がある。皮膚サ症に対してphaseⅡ臨床試験が進行中。 |
エタネルセプト(etanercept) |
stageⅡまたはstageⅢの肺病変。眼病変にたいして試みられたが改善が見られず治験が中止となっている。 |
ボセンタン(bosentan) |
肺線維症や肺高血圧の治療薬として期待されている。肺高血圧に対するphaseⅡ、phaseⅢの治験が、同じくエンドセリンレセプター阻害薬であるambrisentanと同じく進行中である。 |
リツキシマブ(rituximab) |
神経サ症に対して有効であったとする症例報告がある。現在難治性肺サ症に対するphaseⅡの治験が進行中である。 |
コルヒチン |
サルコイド関節症には有効だが、肺サ症には無効であったとする報告がある。 |
NSAIDs |
関節症、発熱に用いられる。 |
○すぐに治療適応がある場合
○治療適応を考える場合
○治療の適応がないまたは保留とする場合
①ステロイド治療
《ステロイド以外の治療を考慮する場合》
・PSL15mg以上投与を継続しているにも関わらず進行を抑制できない。 ・コントロール不良の糖尿病や体重増加が著しい、ステロイド筋症、骨粗鬆症 ・PSL10-15mg以下に減量すると病勢が再燃し、ステロイドの副作用も同時にある場合。 ・患者がステロイドの使用を拒否した場合。 |
②メトトレキセート
③アザチオプリン
④レフルノミド
⑤生物製剤
Infliximab(IFX)
Adalimumab
Etanercept
⑥その他の効果が期待できる薬剤。
⑦現在治験が進行中の薬剤には以下のものがある
以下の場合にはステロイド投与を行うが、経験的な設定である。
ステロイドが不応、副作用にて使用できないなどの場合はMycophenolate mofetil、azathioprine,methtrexate,cyclophosphamide,cyclosporineなどの免疫抑制剤が用いられることがある。
予後は病態によって異なる。