感染症よもやま話

2014/04/30 BCGでも感染する

  • 膀胱癌に対してBCG注入療法がおこなわれることがあります。
  • この薬は、結核菌の毒力を弱めた製剤で、結核の予防ワクチンのBCGと同じものです。この溶液を膀胱内に注入すると、BCGは腫瘍部位に付着し、その細胞内部に取り込まれます。すると、BCGと腫瘍細胞に対する免疫を生じ、強い炎症反応が起こります。このようなBCG反応において、免疫系細胞のマクロファージが活発に働き、腫瘍細胞を貪食・破壊していきます。
  • このBCGでウシ型結核菌(M.bovis)による感染を起こすことがあります。
  • 肉芽腫性前立腺炎、肺炎、肝炎、関節炎、皮下膿瘍、睾丸炎などが生じ、敗血症になることがあります。J Urol1986;135:272)
  • PCRも結核や非結核性抗酸菌のものと違うので、菌の検出も容易ではありません。
  • この治療自体が発熱をするのですが、48時間以上持続する場合はINHを投与する必要があるとされています。Urol Clin North Am1992;19:565)

2014/5/14 IgM-HA抗体の感度は?

【症例】

セブ島に1か月滞在後帰国。
帰国5日目に悪寒戦慄と発熱、8日目に肝障害を指摘され紹介。
BT36.8、PR60、BP117/71、RR24。血液検査でAST164、ALT3385、ALP1460、γGT438、Plt13万、ATY-Ly25%、フェリチン2326。4日目のIgM-HA抗体0.7と陰性。
入院後経過観察のみで肝炎軽快傾向。
14日目にIgM-HA抗体再検、5.2と上昇をみとめ、急性A型肝炎と診断。

2014/05/26 とあるClostridium菌血症

【症例】30代男性

  • ALLの地固め療法(JALSG2013)施行後、day13で背部痛(Th8、L5/S1)出現。
  • CVは入っていない。

【薬剤】PSL105㎎、ACV、FLCZ、LVFX、ST。

【身体所見】BT36.8℃、BP106/61、HR90、RR24、SpO2 96%、上腹部と右下腹部の違和感を触診で認める。舌白苔あり、腹部打診上は鼓音、L5/S1で周囲に放散する痛み。リンパ節腫脹なし。

Patrick test(-)、Psoas test(-)

【検査】WBC630(Neu33/µl)、LDH380、AST/ALT25/40、ALP168、γGT97、Hb10.4、CRP0.0、髄液異常なし。

 

《初期アセスメント》

S/O Nerutropenic enterocolitis(好中球減少性回盲部炎)

→MEPM、VCM、L-AMPで治療開始。

その後

【血液培養】嫌気性ボトルのみGPR(鑑別:クロストリジウム、Lactobacillus,listeria,放線菌)

→その後1週間出続けた。Clostridium innocuumが検出された。

【CT】右腸腰筋、大殿筋に筋炎

  • MTNZ、CP、CLDMが追加されて治癒した。

《診断》C.innocuumによる右腸腰筋、大殿筋の化膿性筋炎

○C.innocuum感染症

 

 

2014/06/04 生はやっぱり危険

【症例】29歳フィリピン人男性

【主訴】心窩部痛、便中索状物

  • 【現病歴】2013/11 腹痛、下痢、60㎝ほどの索状物が出た。現地の病院受診し、mebendazole3日間処方された。
  • 2014/1 来日
  • 2014/4 2㎝の白い虫のようなものをみつけたため、翌日受診

【生活歴】農場経営でヤギ肉、ヤギレバー、豚レバーを生でよく食べる。豚肉、鶏肉はなし。

【身体所見】BT36.6℃、HR62、BP120/702、SpO2 99%

《鑑別診断》60㎝はまず条虫でよさそうなので

  • 無鉤条虫
  • 有鉤条虫
  • 日本海裂頭条虫
  • アジア条虫
  • 豚回虫
  • 寄生虫妄想

ところで、生食にともなう寄生虫の総論

動物種類 寄生虫種類
ブタ 有鉤条虫、アジア条虫、ブタ回虫、旋毛虫
ウシ 無鉤条虫、ブタ回虫、旋毛虫
ヤギ 拡張条虫
※ブタ回虫では肝臓、肺、中枢神経の病変をつくることがあり、Eo上昇がみられやすい。有鉤条虫では皮膚、筋肉、中枢神経病変をつくる。
そのため
  • 精神疾患→寄生虫妄想
  • 食事歴
  • 神経→有鉤条虫、ブタ回虫
  • 呼吸器(咳、胸痛)→ブタ回虫
  • 皮膚→有鉤条虫
などの病歴/病変の確認を行った。
この症例ではいずれも認めなかった。

【経過】

虫卵検査の結果、無鉤条虫や有鉤条虫よりも少し小さいアジア条虫の虫卵がみつかった。プラジカンテルにより駆虫。数mにも及ぶ虫体が排泄された。

 

寄生虫名 特徴 治療

無鉤条虫

アジア条虫

  • 腸管外浸潤(嚢虫症)はない。
  • 無鉤条虫は東アジアに多い。
  • アジア条虫は東南アジアに多い。
  • アジア条虫の卵は無鉤条虫や有鉤条虫と比較してやや小型

 プラジカンテル5㎎/kg

(1回のみ)

有鉤条虫

  •  体節は壊れやすく侵襲性に全身に広がる(自家感染)することがある。
  • 筋肉、眼、中枢神経に嚢虫形成(嚢虫症)
  • 腸管寄生例の中枢神経症状合併は不明。
  • 中枢神経以外の嚢虫症は治療の必要なし。
  • 駆虫後1-2時間後の下剤強で自己感染が予防できる(かも)
  • アルベンダゾール15mg/kg/day×8-28日
  • プラジカンテル50-100㎎/kg/day15-30日
  • 対症療法:ステロイド、抗てんかん薬など

ブタ回虫

  •  豚に寄生しブタ肺炎の原因になる。
  • 卵で汚染された土壌の経口感染をする。
  • 幼虫は肝臓や肺を通って腸管に戻り成虫になる。
  • ヒトでの肺炎、好酸球性髄膜脳炎、脊髄炎
  • ブドウ膜炎、肝膿瘍の症例報告がある。
  • 稀に腸閉塞になる。
  •  合併症に対する対症療法で腸管を開通していることを確認したうえでアルベンダゾール10-15mg/kg/day4-8w

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