1.頭蓋内異常状態
2.身体疾患
3.欠乏性疾患
4.内分泌性疾患
5.薬物
6.アルコール
7.重金属
8.毒物,工業薬品
9.感染
10.膠原病,血管障害
11.その他
正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus:NPH)は,歩行障害,認知障害,尿失禁の3徴を呈し,脳室拡大はあるが髄液圧は正常で,髄液シャント術によって症状が改善する病態として,1965年にHakim, Adamsらによって報告された1).臨床的には,NPHは,くも膜下出血,髄膜炎,外傷などの先行する先行疾患に引き続いて起こる二次性NPH(secondary NpH:sNpH)と,先行疾患が明らかでない特発性NPH(idiopathicNPH:iNPH)とに分けられる.両者はさまざまな点で異なり,別の病態と考えたほうがよい.すなわちiNPHはsNPHと比較して,症状発現までの期間が長く,頭部MRIでシルビウス裂の拡大が目立ち,シャント術に対する反応性が悪い.またsNPHは先行疾患に引き続いて発現するため,通常診療の過程で発見されることが多く見逃されることは少ない一・方,iNPHはしばしば他疾患と間違えられ発見が遅れることが多い.またiNPHは最近,わが国で行われた疫学研究の結果から,一般高齢者の0.5~2.9%2)一’4)の頻度で存在する可能性が指摘され,適切に診断することの重要性が増している.そこでここではiNPHを中心に解説する.
《臨床徴候》
3徴がすべて揃わないこともあるが歩行障害はほぼ必発である.歩行障害の特徴は,小歩で,すり足,開脚歩行である5)一7).歩行は遅く,不安定となる6)8).歩行開始時や狭い場所を歩く時,方向転換時に,足が床に膠着したようになる現象(すくみ足)が顕著となることがある9).パーキンソン病とは異なり,号令や目印となる線などの外的なきっかけによる歩行の改善効果は少ない6).認知障害については,軽症の患者でも思考緩慢となり,注意障害を認める10)11).記1意障害も初期から認めるが再生(覚えた情報を自発的に想起すること)の障害と比較すると,再認(想起すべき情報が提示されたときに,その情報があったことを思い出すこと)は保たれていることが多い.重度のiNPH患者では,全般的な認知障害を呈する12).
排尿障害としては,切迫性尿失禁を認めるが,頻尿,尿意切迫のみ認める場合もある.精神行動障害については,アルツハイマー病と比較すると少ないが,無為が最も多く,次いで不安や興奮が多い13).
2.神経画像検査所見
頭部Computed Tomography(CT)あるいはMagnetic Resonance lmaging(MRI)検:査において,脳室の拡大を認め,典型的には,さらにシルビウス裂の拡大と高位円蓋部のくも膜下腔の狭小化が認められる(図1).このような画像所見を示す水頭症をDisproportionately Enlarged Suba.rachnoid一一space Hydrocephalus(DESH)呼ぶこと
が提唱されている14).くも膜下腔の狭小化は,頭頂部で認められることが多い.一部の脳溝が孤立して卵形に拡大していることもある15).高位円蓋部のくも膜下腔の狭小化は高い感度と特異度でアルツハイマー病における萎縮と鑑別できる15)~17)(図2).
3.治療・予後
脳室・腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt:VP shunt)が行われることが多いが最近では,腰部くも膜下説・腹腔短絡術(lumbo-peritoneal shunt:LP shunt)が行われることも多い.手術により,歩行障害が最も改善しやすい.また介護者の介護負担感も減少する18).合併症として,感染,シャント機能不全,髄液過剰排出による頭痛や硬膜下水腫・血腫などがある.何らかの合併症は18.3%’9)と頻度は比較的高く,術後の定期的な経過観察が必要となる.廃用症候群が加わらないよう;歩行や認知機能に関して,積極的にリハビリテーション行うことが望ましい.術後5年間の長期観察を行った研究では72%20),あるいは91%21)の症例に効果が持続する.
慢性硬膜下血腫
頭部打撲の後,徐々に,頭蓋骨と脳表の間隙に血腫が形成され,脳を圧迫することによって生じる疾患である.慢1生と接頭語がついているものの,血腫は数週間から数ヵ月で増大し,臨床的には亜急性の経過をとる.男性,アルコール多飲歴のある患者で多い.慢性硬膜下血腫の原因となる頭部打撲は軽微なものも多く,また外傷から血腫の増大や症状を呈するまでの期間が数週間~数ヵ月と長いために,患者や家族が原因となった頭部外傷をしばしば認識していない22)23)ことがある.
1.臨床症状
臨床症状は,血腫の生じた場所や大きさにより異なるが,頭痛,注意障害,霧視や複視など頭蓋内圧躍進による症状や片麻痺,失語など局所圧迫による症状を呈する22)24).頭痛は腹臥位よりも立位,座位で増悪し,多弁,易刺激性,睡眠障害,うつ状態・躁状態などの精神症状もしばしばみられる22).進行すると意識障害,昏睡に至る.片麻痺などの局所神経症候を伴う場合は,画像診断が行われ,発見されやすいが,局所神経症候を欠く場合は,見逃される危険性がある.
2.神経画像検査所見
頭部CTまたはMRIによって行い,三日月状の血腫が認められる.血腫は基本的に高吸収域であるが,経過とともに,等吸収域となる(図3).
3.治療・予後
治療は,穿頭術により血腫を吸引,除去する.血腫が早期に除去されれば,脳は血腫による圧迫される前の大きさに戻り,臨床症状も劇的に改善する23>.再発率は5 ・一30%25)26)であり,術後ドレーンを留置するほうが再発率は低い27).術後の長期予後の報告は少ないが,65歳以上の連続209例を後方視的に解析した研究では,術後の生存期間の中央値は4.4年,術後1年の死亡率は32%であり,他疾患の併存による影響が大きいと報告されている
《薬剤性認知症》
認知症の定義に「脳の器質的障害」を必須とすると薬剤性認知症という用語は不適切かもしれない.しかし一般的に薬剤性認知症という用語も使用されているので本項目の題は薬剤性認知症とした.薬剤のなかには,認知障害を引き起こすものがある。一般に高齢者は,肝・腎機能が低下し,代謝・排泄が遅延しやすい.また,合併症の併存により投与薬剤数が増加する傾向があり,薬物相互作用が起きやすい。このため,とくに高齢者では薬剤による認知障害がしばしばみられる.中枢神経系に作用する向精神薬はi薬剤性認知障害を引き起こしやすいが,その他にも,日常診療でよく用いられ,しばしば原因となる薬剤として,抗コリン作用を有する過活動膀胱治療薬や消化器病薬,抗ヒスタミン作用を有する抗アレルギー薬,H、受容体拮抗薬などがある(図4).向精神薬や抗ヒスタミン薬で認知障害が起こるのは,鎮静作用に伴う覚醒レベルの低下によるが,抗コリン薬では,マイネルト基底核から大脳皮質に投射するアセチルコリン系を抑制することによって認知障害が出現する.
1.臨床症状
注意障害が主体となる.体験した出来事や会話の内容に対して,十分に注意が向いていないために,そのことを覚えておらず,見かけ上,物忘れがあることもある.しかし,注意障害は通常,変動を認めるため,調子のよい時と悪い時とで,物忘れをはじめ,その他の認知機能は多少なりとも変動を認めることが多い.意欲低下や活動性の低下を認めることが多いが,逆に,過活動であることもある29).長期の抗コリン薬投与例で,半年以上経過してから症状が出現した場合は,注意障害よりも記憶障害が顕著となることが報告されており,この場合も異常行動や意欲低下などの精神行動障害を認めることがある30).
2.治療・予後
薬剤性認知障害が疑われる場合は,原因となる薬剤の中止または減量を行う.これが難しい場合,作用時間や半減期の短い薬剤に切り替えることもある.薬剤を中止してから改善するまでに要する期間は,その薬剤の半減期や,脂溶性か水溶1生かなどによっても異なると思われるが,長期投与例でも2一一4週程度で改善すると報告されている30).